なんか気が抜けたようにボーッとしている。
「毎度のことでしょ!」と言われると困るのだが、
今回は〝ボーッと〟の中身が違う。ラグビーW杯の準々決勝で日本代表が負けてしまい、
もうあの「桜の戦士たち」が観られないのかと思うと、淋しくて、切なくて、
悲しくて、その言い知れぬ喪失感にただボーゼンとしている、という感じなのだ。
世間では〝ペットロス〟ならぬ〝ラグビーロス〟と言っている。
呑兵衛仲間たちと会えばラグビーの話題だった。
朝の散歩の時に会う仲間たちも、口を開けばラグビーの話だった。
「あのガツンとぶつかってゆく雄々しさがいいな」
「倒れても前に進もうとする姫野君のガッツがいいわね」
「笑わない男・稲垣のあのムスッとした顔には笑っちゃったよ」
姫野、稲垣、田中、リーチなどと、十年の知己みたいに気安く呼んでいるが、
ついこの間まで、名前すら知らなかった連中である。
ボクもご多分にもれず〝にわかファン〟の一人である。
何度観てもルールが分からないという、末席のそのまた末席を汚している
へっぽこファンである。そんな即席ラーメンみたいに出来上がったファンなのだが、
少しも腰は浮ついていない。岩盤みたいにしっかと足をつけたファンなのである。
ボクは「いよいよ〝筋肉の時代〟が来たぞ!」などと周囲に吹聴している。
ただのマッチョではない。ガツンとぶつかり合って、時にエキサイトすることもあるが、
試合が終わればノーサイド。互いに健闘を讃え合い、リスペクトし合う。
サッカーなどではサポーター同士で争ったり、最近の「韓国対北朝鮮戦」みたいに、
「まるで戦争のようだった」と、反則のオンパレードになることだってある。
反則ならラグビーでも起きるが、サッカーには「シミュレーション」と呼ばれる
卑怯な手がある。相手選手に反則を食らったと偽装するパフォーマンスである。
ブラジルのエース・ネイマールがファウルを受けた際の〝過剰演技〟はつとに
有名だが、なに、他の国の選手だって平気でやる。VTRで再生すると、
ぶつかってもいないのに大げさに倒れ込むシーンが映っている。あのオーバーな
リアクションには誰だって鼻白んでしまうだろう。
柔道の試合にもシミュレーションに近い偽装攻撃がある。
〝掛け逃げ〟である。投げる気もないのに投げるふりをして、
相手に消極的指導を与えるように仕組む。ポイントで勝敗を分ける
〝JUDO〟ではしばしばこの偽装攻撃が用いられる。
ラグビーを手放しで絶賛するわけではないが、こうした偽装攻撃は皆無で、
あくまで正々堂々と戦う、というのを表看板にしている。
実際、インチキプレーをやっているヒマなどなく、
スクラムハーフの田中史朗などは大会直前に奥さんに向かって、
「もし俺が死んだら、新しいいい人見つけてな……」
などと言い残して家を後にしている。この言葉が決して大袈裟なものでないことは、
試合を観ればだれでも納得する。みんな満身創痍、命懸けで戦っているのだ。
20日の「対南ア戦」は瞬間最高視聴率が50%を超えたという。
2人に1人は観ていたことになる。近年では珍しいフィーバーぶりである。
結果は3対26とボロ負けだったが、スタジアムの観客たちは桜の戦士たちに
惜しみない拍手を送った。選手たちも泣いたが、観客も泣いた。
日本中が感動の涙に包まれていた。鳴り物入りの応援合戦などなくても
試合は盛り上がる。むしろ鳴り物応援がないほうが自然な一体感が生まれ、
心が一つになる。鳴り物ぎらいのボクには嬉しい光景だった。
ボクは前期高齢者と呼ばれる役立たずのジイサンだが、
姫野や稲垣選手のようなキン肉マンをめざし、日々筋トレに励もうと思う。
みごとムキムキ男になれたあかつきには、思いっきり突進してみたいのだが、
さて誰に向かってタックルを仕掛けていったらいいのだろう。
こんど100㎏超の婿殿が来たら、ぶつかり稽古のお相手をつとめさせよう。
婿殿は元早大アメフト部の猛者。相手に不足はありませぬ。いざ……
←見よ、この雄々しいタックルを!
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