どんな職種にしろ自分は〝長〟の器ではない、と思い極めていたのだが、
何ということだ、最も自分にそぐわない〝長〟に祭り上げられてしまった。
ボクが住む大型団地(全11棟、1612世帯、住民数5000人)のトップ、
管理組合の理事長に選任されてしまったのだ。昔からクジ運が悪く、
いつだって貧乏クジを引かされてきたのだが、今回の貧乏クジは
ちとケタが違う。
ただでさえ口うるさいおじさんおばさんがいる、ということで
近所でも評判の団地だ。高学歴で一部上場会社の社員や元社員が
うじゃうじゃいる団地。となると、いま噂の「正論おじさん」や
「自己承認欲求」の強いおっさんたちの巣窟、ということでもある。
現にボクの住む棟には東大卒が佃煮にするほどいて、医者や弁護士も
数知れない。棟総会などが開かれると、これらひと癖あるおじさんたちが、
「僭越ながら……」と朗々と弁じ立てるのである。中身はほとんど
重箱の隅をつついたようなどうでもいいことばかりなのだが、
それでも本人は得意満面の顔をして一席ぶつのだ。
こんなおっちゃんたちを相手に、団地をまとめていくというのだから、
考えただけでも気が遠くなる。小心者のボクなんかに務まるのだろうか、
と眠れぬ夜が続きそうな雰囲気なのである。
口の悪い団地仲間たちは、
「いよっ、待ってました。真打ち登場!」
などと囃し立てるが、こっちとら生きた心地はしないのである。
選任された日、「続けて理事会がありますから、少し見学したら?」
と管理センターの人に言われたので、ちょっくらのぞいてみた。
「………………?」
こりゃダメだ。何を話しているのかチンプンカンプンである。
もともと脱俗的な性格だから、世俗的なこと一切がチンプンカンプンなのだ。
おまけにケンカっ早い性格だから、売られたケンカはすぐ買おうとする。
それに意外だろうが、ケンカにそこそこ強いのである。
殴り合いでも口ゲンカでも、どっちもござれ。
まことにタチが悪い。
「まさに適任よ!」
と励ましてくれるおばちゃんもいるが、なかなかその気にはなれない。
ま、逃げるわけにもいかないので、できるだけ頑張ろうとは思っている。
が、「天気晴朗ナレドモ波高シ」の予感は十分している。