2016年9月22日木曜日

「ら抜き言葉」は美しくない

「見れる」「出れる」という、いわゆる「ら抜き言葉」。
ボクはもちろん「見られる」「出られる」の「ら入れ言葉」派だが、
文化庁の2015年度の世論調査では前者の「ら抜き言葉」派が「ら入れ言葉」派を
上回ったことが分かった。旧套墨守を旨とするボクら旧世代が、ますます少数派に
なりつつあることを実感させられる。

ボクの敬愛する故・福田恆存は『日本への遺言』の中で、この「ら抜き言葉」に触れている。
《「見れる」「着れる」「食べれる」という語法を許してはいけない。
その理由の第一は、音がきたない

「見れる」より「見られる」のほうがきれいに響くのは、前者のmiとreの間に、
後者ではraが入るから、と説明している。
《その母音だけ拾っていくと、前者はi・eとなり、後者はi・a・eとなる。
aは最大の広母音である。そしてiは最小の短母音である。広母音は
広大、寛濶。短母音は急激、尖鋭の感を与える》と。

それだけではない。福田はなおも続ける。
《第二の理由は、後者「見られる」のほうが歴史が長いことだ。
言い換えるなら、それが過去の慣習だということ。明治以来、
殊に戦後は「過去」とか「慣習」という言葉は権威を失ったが、
少なくとも言葉に関するかぎり、これを基準としなければ、
他に何も拠り所がなくなってしまい、通じさえすればよろしい、
ということになる》

ボクのきらいな〝結果オーライ主義〟。
言葉の響きがきたなくたって通じればいいじゃん。
箸の使いかたがぐちゃぐちゃでも、口に運べればいいじゃないの……etc。
ボクはこの種の結果さえ良ければいいじゃない、といった安易な姿勢が
大きらいだ。そこには立ち居振るまいの美しさとか、言葉の響きの美しさ、
といった日本人が過去の遺産として備えていた〝美感〟がみじんも
感じられない。彼らは真正の日本人ではない。

たびたび書いていることで、読者各位にはすでに〝耳タコ〟だろうが、
ボクに唯一あるであろう行動規範は、
「美しいか、そうでないか」
これだけである。ボクのキャッチフレーズは、というより行動目標は、
これも耳タコだろうが、「挙止端正」の4文字。
挙止端正とは立ち居振るまいが美しく整っている、の意だ。


人気ラーメン店の行列に並ばないのも、「カッコわるいから」
「美しくないから」がその理由。また、「愛」だとか「正義」といった、
発音するたびに思わず赤面してしまうような言葉を吐いたり、振りかざしたりしないのも、
その行為が「カッコわるいから」「美しくないから」で、へたをするとその陰には、
〝色情〟があったり〝利己心〟が隠れていたりするから。
時に正義を振りまわすことは犯罪的でもある。


(ああ、せめて限られた余生は、「ら抜き言葉」の聞こえない世界で過ごしたい)
ボクの切なる願いである。







←この記事は、『日本の論点』(文芸春秋)の
2012年版に書いたボクの文章。「ら抜き言葉」や
「さ入れ言葉」の問題点を縷々綴った。

2 件のコメント:

  1. しまふくろうさま、こんにちは。

    毎日作業にあけくれている木蘭でございます。

    だいぶお留守だなぁと思っていたら、
    ここにおいででしたか(笑)

    ら抜き言葉は確かに気になります。
    「出れる」「見れる」
    現代の人々は、皆さん「舌」が短くて発音しずらいから「ら抜き」になってしまったのかしら。

    小中学校の時は、漢字の読み書きや画数、書き順が徹底されていましたし、
    言葉の使い方などもうるさいくらい教えられてきたように思います。

    寺院の子供たちや檀家さんのお子さんたちを見ていますと、
    学校であまり国語に力を入れて教えられてこなかったことが分かります。
    ら抜き言葉もそうですが、
    なんといっても「漢字」が読めない子が多くて。

    春日部→はるひぶ
    小豆島→こまめじま・あずきじま
    鬼怒川→きどがわ
    小泉八雲→こいずみはちぐも

    小学生の高学年の時に炎という漢字を書かせたら、
    「火」が三段重ねに書かれていました。(笑)

    私自身もきちんとした言葉を話しているのかは疑問ですが(笑)、
    美しい日本の言葉は、しっかりと未来へ継承してほしいものですね。

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  2. 木蘭様
    いらっしゃいませ。お待ち申しておりました。木蘭さんだけはフリーパスですからね、
    いつでもタダなんですよ、コメントも(笑)。
    「こまめじま」と「あずきじま」には笑っちゃいました。「はるひぶ」もひどいな(笑)。

    木蘭さんの日本語は大丈夫です。ちょっとばかり怪しくても、ボクは許します。

    読めないということなら、最近の子の名前は読めませんね。
    キラキラネームというのもあるけれど、騎士(ナイト)君なんていう水泳選手
    もいましたね(近くの朝霞自衛隊に)。ジュリアとかラブホ、ウンコというのも
    ちと困りますね。

    美しいニホンゴを操るというのは、簡単なようでいてけっこう難儀なことなの
    かもしれません。

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