2019年6月16日日曜日

ミディアム・レアにしておくれ

山本夏彦以上の辛口コラムニストが高山正之だ。
ボクはこの高山の本をほとんど全部読んでいる。
辛口が過ぎて、読んだあと軽いめまいが起こるのが玉にキズだが、
テレビに出たがり屋の三流評論家などでは相手にならないくらいの論客だ。

さてその高山が、かつて産経新聞ロサンゼルス支局長として
アメリカに赴任していた時、Social Security Number(略称SSN)
というものを申請した。日本でいうなら社会保障番号みたいなものだろうか。

アメリカには日本のような戸籍制度がないので、日本のマイナンバーみたいな
ID番号が必要になる。それがSSNで、個人の証明だけでなく銀行口座の開設や
運転免許の取得などにも提出を求められるから、外国人就労者は必ず申請
しなくてはならない。

さてそのSSNには個人を識別するための項目欄があって、そこには「目の色」や
「髪の色」「肌の色」といった記入欄がある。これらを自己申告だが埋めなくて
はならない。外国の小説を読むと、登場人物の髪や目の色などが必ず書き込まれている。
日本人はみな同じだから、いちいち髪や目の色を書く必要はないから、最初、
違和感を感じたものだが、たしかに欧米では肌や髪の色はさまざま。個人を識別
するためには目の色や髪の色は申告しておくべきなのだろう。

で、高山は、
「おれの眼の色が黒いうちは……」とか「緑の黒髪」なんて言葉があるから、
たぶん黒で大丈夫だろうと書き込んではみたが、「肌の色」の欄でハタと
考え込んでしまった。
(いったい何色って書けばいいんだろう?)

支局の前任者に聞いたところ、「イエローって書いとけば」ときたもんだ。
(いくら黄色人種といったって、肌の色がまっ黄色なわけではないでしょ)
戦後、日本に進駐した米軍の将校が、
「日本女性は白人女性より色が白い、と驚いた」
とするエピソードを評論家の日下公人が紹介していたくらいだから、
イエローと書くのはどうしたってはばかられる。

思い余って高山が「何て書けばいいの?」と国務省の役人に訊いたところ、
「ミディアムって書きなさい」
と言われたとか。

白人たちはCaucasian(コケージアン)と書き、
黒人はBrownとかDarkと書くらしい。
で、日本人はMedium。なんだかステーキの焼き具合みたいだ。

高山は少しおふざけ気味に、
「少し色白の日本人はmedium-rare(ミディアム・レア)って書くのかしら?」
と窓口の役人に重ねて尋ねたところ、冗談が通じなかったみたいで
やっこさん、キョトンとしていたという。この話、けっこう笑える。

ああ、それにしても黄色人種はミディアムかよ。
俺たちゃビフテキじゃねえぞ!


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