2017年3月4日土曜日

人生なんて所詮ちょぼちょぼ

ボクもカミさんも同窓会と名のつくものには一切出ないことにしている。
かつての同窓が懐かしいかといわれれば、懐かしくないこともないが、
たかだか数年間、席を同じゅうしていただけの関係なのだから、ことさら
懐かしがって会うこともないでしょう、というのがボクたちの考え方である。

カミさんはボクと違って級長とか生徒会長を歴任した人望ある女だ。
だから、ボクなんか「素直に出ればいいのに」とつい思ってしまうが、
彼女に言わせると、それなりの理由があるという。

数十年前、東京近辺にいる同窓生だけを対象にした〝プチ同窓会〟が開かれたので、
彼女はいっぺん出てみたという。同窓生の出身は浜松だが、首都圏に住んでいる
人たちはけっこう多いそうで、おっかなびっくり出てみたのである。
が、ひどく落胆したという。

「子供の頃の話はけっこう盛り上がったんだけど、そのうち何々さんは玉の輿に
乗って豪邸に住み、高級外車を乗り回してるだとか、何々さんの息子は東大に
受かってどうしたこうしたとか、要は噂話と自慢話に終始して、何か人生の機微に
ふれるような、生き方の指針になり得るような知見なり見識といったものが皆無
だったのよね。それでガックリきて、もう出るのはやめようと……」

うちのカミさんは、何がきらいといって、自慢話と噂話ほどきらいなものはない。
人並み以上に教養があって仕事もできるのに、自らそれを誇ることはしない。
もともと人前にしゃしゃり出るようなことが苦手な女だから、見栄を張ったり、
才能をひけらかしたりすることがきらいなのである。

一方、ボクの場合は、自慢話は大好きなのだが、「団地のおばさんやおばあさんたち
にもてもてでね……」だけでは、話がもたない。だからといって、他に自慢できる
ものが何もないのだから困ってしまう。それに小中高と、ボクの人生はくらかった。
太宰治だとか萩原朔太郎といったくら~い作家の詩や小説ばかり読んでいたせいか、
いまにも飛び降り自殺しそうな陰鬱な顔つきをした少年だったのである。

そんな〝生体反応〟の飛びっきり薄かった人間が、同窓会なんぞに顔を出しても、
〝楽しかった思い出〟を共に語り合えない。そもそもそんな思い出が一つもない。

さあさ、お立会い。そんなくら~い男を、どういう風の吹き回しなのか、
かつての同窓生二人がわざわざ訪ねてきてくれたのである。会うのは数十年ぶり。
ボクと彼らは中学3年時の同窓で、二人はなぜか夫婦になっている。旦那のほうは
スポーツ万能、勉強もできて、性格も優しいスーパースター的な存在だった。
奥方も同じくスポーツ万能、才色兼備のマドンナのような女性である。

このかつてのスーパースター同士がめでたや夫婦になったのだから、
川越の町じゅうが上を下への大騒ぎ。マドンナに秘かに憧れていた
スケベーな男どもは揃って首うなだれ、しばらくは廃人のようだったと、
ウソつきの友だちがまじめな顔して語っていたっけ。
彼らスケベーどもの心情を代弁するなら、斉藤和義のヒット曲
ずっと好きだった』の歌詞そのもの、といったところでしょうかねぇ。

ああ、憧れのマドンナ……
その当のマドンナとプリンスが、酔狂にも泥ガメのように
性格のくらかった男の家を訪ねてきたのである。

ボクはたしかに「くらかった」。でもそれは昔のことで、今は殺されても死にそう
にないような面つきと図体を持ち、毎日、酒を喰らってはガハガハとバカ笑いをして
いる。これがかつての繊細な青白き文学少年の成れの果てか、と自分でも呆れる
ばかりなのだが、どういうわけだか年を追うごとにデリカシーが鈍磨していき、
ただの酒飲みの肥ったオッサンになってしまったのだからしかたがない😭。

で、このスーパースター夫婦を前に、ボクはこんなことをしゃべったのだ。
人生なんて所詮ちょぼちょぼでね、神さまはいたって公平なのよ。ボクみたいに
人生の前半暗かった人間は、後半になると俄然明るくなる。青春期が真っ暗けの
ケーでも、壮年期、老年期には薄日が差してくるんだ。先憂後楽がいいのか先楽後憂
がいいのか、そんなことは分からんけど、どっちに転んでも帳尻だけは合うんだよ」

人間の一生の幸福感の総量は誰も似たり寄ったり――
曽野綾子女史がそんなふうなことを言っていたのを思い出す。

その日、ボクたちはよく飲み、よく食べ、よくしゃべって笑った。
一升瓶が空になり、ワインボトルも空になった。
気の置けない友というのはいい。ボクはざっくばらんな性格で、
気取ったりするのがどうにも苦手だ。でも近頃はばらんばらんが過ぎて、
収拾がつかなくなるのが欠点といえば欠点。
そんなボクに調子を合わせてくれたのか、彼らも飾らず、
心の裡を正直に語ってくれた。

再会を誓い合って別れたが、今度いつ会えるかはわからない。
〝前期高齢者〟になると、それこそ一寸先は闇なのだ。
だからボクは〝一期一会〟の精神で、いつも人と対するよう心がけている。

ま、それほどしゃっちょこばることもないが、要は今あるその時を大切にしよう、
ということである。M君、R子ちゃん、いつまでもお元気で。




←個人情報保護法とやらがうるさいので、
全員怪しい目隠しに。
M君、その出っ張ったお腹、
なんとかしてくださいな。←自戒も込めて
R子ちゃん、相変わらずきれいだよ😵。






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