♬ まっかに燃えた 太陽だから
真夏の海は 恋の季節なの
国民的大歌手の美空ひばりが、短い脚にミニをはき、
軽やかに腰を振って歌った『真赤な太陽』。わずかに膝上数センチの
ミニスカートではあったが、当時、ひばりのミニは国じゅうに衝撃を与えた。
その真っ赤に燃えた恋の季節だか何だかが、今年もやってきた。
むかしは真っ赤な太陽の季節が待ち遠しかったものだが、いまは齢のせいか
うっとうしい。齢は取りたくないものだ。
さて、日本の子供たちに〝おひさま〟を描かせると、
必ず真っ赤に塗りつぶすという。なぜなら、
♬ 白地に赤く 日の丸染めて
とあるように、日本では太陽の色は赤色となんとなく決まっているからだ。
でもこの決まりごとは、世界じゅうどこでも通用するとは限らない。
ためしにアメリカ人に「太陽の色は何色?」と訊いてみてほしい。
たぶん「黄色に決まってるだろ、バカなこと訊くなよ!」と呆れられるだろう。
ドイツの絵本にもDie Sonne ist gelb(おひさまは黄色い)とあって、英語、
ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語といった西ヨーロッパの
言語圏では「太陽は黄色い」がふつうらしい。
一方、ロシアやポーランドといった東欧スラブ語地域は、日本と同様、
「太陽は赤い」ということになっているらしいから、「太陽=赤」派は
日本人特有の文化から来ているわけではないようだ。
来月からフランス人の居候をしばらくあずかるが、
いっぺんこんな質問をしてみたい、というより確認をしたい。
「フランスでは、リンゴといったら何色?」
おそらくこの留学生は「pomme(リンゴ)といったらvert(緑)ですよね」
と答えるだろう。フランスの教科書や絵本では、リンゴは緑色に塗られている。
フランスでrougeルージュ、つまり赤い果物といえば、代表はサクランボで、
リンゴではないのだ。
ボクの大学時代の担任であった独文学者の宮下啓三氏は、『白雪姫』のことを
グリムの原著(初版)で調べたところ、リンゴの半分が真っ赤で半分が白だった
ことがわかったという。それが外国語に翻訳されていくうちに手が加えられ、
ディズニーのアニメ『白雪姫と七人のこびと』に出てくる真っ赤なリンゴが
決定打となり、以後、赤いリンゴが定着したという。
ただこうした文化意味論的な考察には、重要な点が抜け落ちているような気がする。
リンゴの品種についての言及がまるでないのだ。いまでこそ日本の赤いリンゴが
世界中に輸出されているが、少し前までは欧米では緑のリンゴがふつうだった。
グラニースミスという品種が一般的で、色は緑。ジューシーでかなり酸っぱい。
ただ熱を加えると糖度が上がるので、もっぱらアップルパイ用に用いられている。
日本には紅玉やふじなど赤いリンゴが約50種類ある。
青いリンゴも17種類と豊富だから、一概には言えないが、
やはり日本でリンゴといえば、だれもが赤色を思い浮かべるだろう。
太陽は黄色で、リンゴは緑色。日本で言う茶色がオレンジ色になってしまう国が
なんと多いことか。異文化交流などと簡単に言うが、ことはそう単純ではない。
たとえばもしイギリス人の客に、知らずに馬刺しなんかを出したらどうなるか。
嗚呼、想像するだに怖ろしい。
←食い意地の張った白雪姫は
このうすっ気味悪い老女から
もらった赤いリンゴをガブリ……
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