2017年9月1日金曜日

神童も二十歳過ぎればただの人

汗っかきのボクがイーグルスの『Hotel California』の中にある歌詞の
♬ sweet, summer, sweatという一節を口ずさんだら、居候のLucas(ルカ)
がなぜかニヤリと笑った。彼はこの曲を知っていて笑ったのではない。なにしろ
The Beatlesも知らない世代である、同じく50年ほど前に流行ったThe Eagles
なんて知るわけがない。

ではなぜニヤリとしたのか。言葉遊びである。〝甘い夏の汗〟というs
連なった言葉におかし味を覚えたのである。ルカは言葉遊びが好きだ。
例えば〝ル、イ、バ〟といったような(笑)。こんなふうに韻を踏む
言葉を並べてはひとりニヤニヤ笑っている。語彙が豊富になるわけだ。

「ルカ、こんな言葉を聞いたことあるかい?」
ルカを前にボクは質問をした。
Blood,Sweat,and Tearsという言葉だ。さて誰を思い浮かべる?」

ボクたちの世代なら1960~'70代に活躍したアメリカのロックバンド名を
思い浮かべるかもしれない。あるいはジョニー・キャッシュのアルバム名か。
しかしボクは或るイギリス人の名前を期待していた。

「もしかしてWinston Churchillのこと?」
ルカはボクの期待どおりの名を挙げてくれた。
そう、1940年5月13日、英国議会下院での首相就任演説の一節がこれだ。
〝I have nothing to offer but blood, toil,tears, and sweat 私は血と苦労、
涙と汗以外に捧げるべきものを持たない〟
ナチスドイツと戦うイギリス首相の断固たる決意を述べた有名な演説だ。

「どうしてこの演説のことを知ってるの?」
ルカに訊いたら、
「以前読んだ本の中に書いてあったような気がする」
ルカの返答にボクは嬉しくなった。Hitlerの『Mein Kampf我が闘争(英訳)
を真剣に読み込んでいる読書好きの少年だ。まだ15歳なのに下の写真のような
政治・経済関連の本を片っぱしから読み飛ばしている。

「電車の中でも一心に『我が闘争』を読んでるのよね。変わった子だね」
これはルカと一緒に都心へ出た時のカミさんの印象である。同い年の子で、
車内で一心不乱に『我が闘争』を読みふけるような日本人がいるだろうか。
ルカに感心するとともに、一抹の寂しさも感じざるを得なかった。

「政治とか経済とか、むずかしい本が好きなんだね」
ボクが問いかけると、ルカは、
「そう……でも別にむずかしくないよ」
だって。参ったな(笑)。
『我が闘争』はボクが17か18歳の頃に読んだけれど、実に難解だった
記憶がある。それにいかんせん分厚い本で、完読するのに四苦八苦だった。
ところがルカは、細かくノートをつけながらホイホイ読み進んでいる。

ふだんはおどけておバカないたずらばかりしているが、
読書をしているときの顔は真剣そのもの。集中力が並大抵ではないため、
声をかけてもしばらく気づかないときがある。バカなのか利口なのか、
いまだ判別がつかないが、ひょっとするとひょっとするかも知れない。
AFS練馬支部でも「支部開設以来の逸材かも……」などと噂していると聞く。
こう見えてもボクだって、神童と呼ばれた時期があったような気がしない
でもない……でもないか(笑)。←どっちなんだよ!
はてさて、どうなることやら。

いつの日か成人したルカと、酒を酌み交わしながら世界情勢について、
あるいはスタンダール並みの〝恋愛論〟かなんか戦わせられたらいいな、
なんて想像すると、ついこちらもニンマリしてしまう。
そんな日が来れば、ホストファミリーとしてこれほど喜ばしいことはない。




←『我が闘争』以外に、ルカが
読んでいる本。『BUSHIDO』は
ボクからルカへプレゼントしたもの。





※あとで聞いたところ、「Hotel Californiaくらい知ってるよ」とルカに抗議された。
じゃあ一緒に歌ってみよう、ということでボクがギターで伴奏をつけてやったら、
ひどいout of tuneだが、なんとか歌いきった。知らない、なんて勝手に決めつけてしまい、
ごめんね、ルカちゃま。近くルカとのデュエットを動画にアップするつもり。乞うご期待!

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