2017年10月27日金曜日

時にはケダモノのように

「このハゲ――――ッ!」の絶叫で、すっかりお茶の間の人気者になった
「埼玉4区」の豊田真由子様は、和光市の朝の駅頭でもひら蜘蛛のように
這いつくばり、ひたすら「ごめんなさい」を連呼していた。が、通勤客は
冷たく無視。案の定、ふたを開けたら落選というザンネンな結果となった。
猿は木から落ちても猿のままだが、議員は落選するとただの人になってしまう。

しかし禍転じて福と為すというように、「ハゲは学歴より強し」といった
格言がこの事件を機に、後世にまで残るかもしれない。ハゲに悩む男たちに
とっては福音だろう。ハゲの功名……じゃない、〝ケガ〟の功名というわけ
ですよ、真由子様。よかったね、ほんとうによかった。

さて豊田元議員が、元秘書に暴行を加えたかどで、埼玉県警は27日、
傷害と暴行容疑でさいたま地検に書類送検した。真由子様は、
手は上げたが、頭を殴ったのではなく肩をたたいただけ
などと弁明、非力な女の細腕で頭など殴れるわけがない、
と必死に打ち消していた。

ここまでの経緯はボクと同じ。
ボクの場合は、深夜の団地内で酒を飲み大騒ぎしている若者(男女)
そっとたしなめに行ったところ、「スミマセン、スミマセン」と元秘書
のように平謝りすると思いきや、酔余の勢いで逆ギレした男のほうが、
「何か文句あるのかよ、この糞おやじ!」と体当たりするみたいに
歯向かってきたため、若者の頬とお腹をそっと撫でて押し返してやった。
ところが、奴さん大仰にもドスンと後ろに転倒。連れのへべれけ女も
「てめえ、何すんだよ!」
と、これまたヤクザ顔負けの汚い言葉で絶叫、
騒ぎが大きくなり、とうとう警察沙汰になってしまった。

正直に言うと、これは絵に描いたような正当防衛で、警察もそれを認めてくれた。
ボクはそっと撫でたつもりだったが、実際は右の強烈なフックが相手の左顎に
さく裂、同時に左のボディブローがみごとみぞおちに決まっていた。
反射神経である。この2発のパンチで相手は後方にダウン、
(このおやじはいったい…………?)
目には明らかに怯(おび)えが走っていた。
酔眼でよ~く見れば、筋骨隆々のおやじである。しまった、と思っただろう。
おそらくこの若造、殴り合いの経験が一度もなかったにちがいない。

こっちは若い頃から、泥酔しては飲み屋でケンカを売ってたという狂犬おやじ。
殴り合いには慣れているから、畢竟(ひっきょう)、パンチも正確に当たる。

警察署ではこってりしぼられてしまったが、こっちの言い分が正しいと、
署員も理解を示してくれた。で、形式的にさいたま地検に書類送検され、
これまた検事殿に根掘り葉掘り訊かれたものだが、結局、不起訴処分という
裁定になった。正義が勝ったのである。

こんなことなら、もう2~3発強烈なやつをお見舞いしとけばよかった、
と後で後悔したものだが、カミさんにはきつくお灸をすえられてしまった。

昔は学校でも原っぱでも、子供たちはよく取っ組み合いのケンカをしていた。
しかし、今どきの子供たちは野蛮な行為を避けるのか、口ゲンかはするものの、
手をあげることがめっきり少なくなった。お行儀がいい、と言えばそれまでだが、
ボクにはいささか物足りない。男はいっぺんくらいケダモノになって、
死力を尽くして闘ったほうがいいのだ。

「暴力は絶対ダメ」「話し合えばわかりあえる」「命は地球より重い」
などというフニャチン教育を受けていると、キンタマが退化し縮みあがって
しまうのか、イザという時にまったく役に立たなくなってしまう。車だって
時々エンジンをふかし、レッドゾーンへもっていったほうがいいという。
安全第一と、いつも低速で走ってばかりいては、エンジンだって鈍(なま)って
しまうのだ。

殴り合いは何より健康にいい。アドレナリンが全身を駆けめぐり、
(ああ、男に生まれてほんとうによかった)
と、言葉に尽くせぬ高揚感に包まれる。

豊田真由子様の暴行事件がとんだ脇道へそれてしまったが、
同じ「埼玉4区」内で、同じような傷害事件を起こした身の上同士、
どこか他人事とは思えない。いまなら〝お友だち〟になれそうである。

ああ、それにしても殴り合うと気分がサッパリして気持ちがいい(勝てば、だけど)
次のアドレナリン放出日を心待ちにして、今は静かに腕を撫(ぶ)していよう。





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