2019年11月12日火曜日

本は買うものではなく借りるもの?

ボクは実名でも本を3冊出しているが、これもまったく売れなかった。
嶋中労の筆名でもパッとせず、実名で書いた本はなおさらパッとしなかった。
こんなにも〝パッとした人間(笑)〟なのに、本を書くとパッとしない、
というのはいったいどういうことなのだろう。

ボクの仲間たちはいっしょに泳いだり、キャッチボールをしたり、
旅行したり、また浴びるほど大酒を喰らったりする気安い仲だが、
ついぞボクの本を読んでくれたという話を聞かない。

「『おやじの品格』読みましたよ。面白かったねえ。女房も
いっしょに読んでますよ」
という友がいたが、聞けば図書館で借りてきたという。
(おいおい、ネットの中古品なら1円で売ってんだぜ…………ケチ!)
と内心思ったりするのだが、読んでくれるだけでもマシか、と最近思い直している。
それにしても当の作者の前で言うのだものね、悲しくなるよ。

ボクのお気に入りは、『座右の山本夏彦』なのだが、
「山本夏彦ってだれ?」
という人がけっこういるので、
(これじゃ売れないはずだ……)
と半分あきらめてもいる。
稀代の文章家で文明批評家でもある名コラムニストの山本夏彦。
ボクはこの夏彦翁の毒のあるコラムにガツンとやられ、
爾来、翁の本はすべて読破。つむじ曲がりの性格まで似てしまった。

本を出版したらすぐ夏彦翁の長男・山本伊吾氏から、
「いっしょに飯でも食いませんか?」
とお誘いの電話があった。伊吾氏とは面識はないが、
「父のことをこれほど的確に描いてくれた人はいない。ぜひ食事をご一緒したい」
と過分なるお褒めをいただいたもので、ありがたくお招きにあずかった。

山本伊吾氏は新潮社の雑誌『FOCUS』の編集長で、なかなかの切れ者と聞いていた。
指定の場所に行ったら、なぜか作家の島村洋子さんもその場にいた。
なぜ島村さんが、と訝しく思ったが、どうやら二人はできていたらしい。
三人でどんな話をしたかは、すっかり忘れてしまったが、
話の中身より妖艶でグラマラスな島村さんにすっかり魅せられてしまった。
『「不道徳」恋愛講座』などという本を出しているくらいだから、
艶っぽいだけでなく、ちょっぴり危険な匂いも。

さて、承知のように出版不況が恒常化している。
人々が本を読まなくなってしまったので、出版業界は火の車なのだ。
おまけに高校の『国語』から文学作品が消えてしまうらしい。
実際は『文学国語』と『論理国語』の二択になるらしいのだが、
教科書から漱石や鷗外が消えてしまうというのは由々しきことである。

ボクは「本は自前で買うもの」という考えだが、
「本は図書館で借りるもの」と考えている人がけっこういる。
買えば狭い家がなおさら狭くなる、というのが理由のひとつで、
それを言われるとなるほどそうだよな、とは思うが、
本に埋もれて生活するのが幸せの極致、
と考えている人間からすると、ちょっと淋しい。

読書は習慣だ。切実な内なる欲求に応えようとした習慣だ。
この習慣が身につかなければ読書家にはならない。
ボクの場合は、魂の憩う場が読書であり、多感な傷つきやすい心のシェルター
(避難所)が読書でもあった。生き抜くために絶対に必要なものが読書だった。
こうした切実な欲求を持たない人は、本など読まなくても生きていける。
それこそスマホとにらめっこして人生を終える人だっているだろう。

ボクは生涯、本を手放さないだろうし、そのつもりもない。
本と共に歩んできた半生に心から満足している。
おまけに曲がりなりにも物書きという仕事に就けた。
それこそ売れない物書きで、それも端くれのそのまた端くれだが、
自分らしくていいかな、などと近頃思っている。
負け惜しみに聞こえるだろうが、実際、そう思っているのだからしかたがない。

書きたい本はある。
コーヒー関連の本を書いてくれ、と懇意の編集者は声をかけてくれるのだが、
ほんとうに書きたいのはコーヒーとは何の関係もない。
もっと日常雑感、世相巷談的なものだ。
でも、これまた売れないだろうから、迷惑をかけてはいけないと思い、
編集者には黙っている。

一発逆転のホームランでボクも編集者もウハウハ、
というのはないのでしょうかねェ(笑)。






朝日新聞デジタルより














2 件のコメント:

  1. 嶋中労さま

    こんにちは。
    先程Amazonにて「座右の山本夏彦」をポッチとしてみました。
    これで少しはバカから這いあげれるかもしれません。
    今の世を生き抜く知恵がつくかもしれませんね。

    そういえば、川越のアニキも一発逆転を狙っていますがはたから
    観ていますとすでにお二人とも勝ち組のように感じてしまいます。

    ありがとうございました。

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  2. 田舎者様
    「田舎者様~、1冊お買い上げ~!」
    ありがとうございました。1円ですが、中身は濃いです。

    川越の哲ちゃんとは〝コテッチャン〟でも食べながら3人で一杯やりましょうかね。
    ただいまちょうど夕飯を食べ終わったところ。
    ビールと芋焼酎お湯割りが心地よく、また太っちゃいそうな予感がします。

    辛口が好きなら、高山正之も面白いですよ。
    その博覧強記ぶりにきっと舌を巻くはずです。

    いつもコメントくれて、ありがとね。

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