2019年12月26日木曜日

人の進化して猿となった今日

近頃の子供たちは、寄るとさわるとスマホか携帯ゲーム機を取り出し、
一心不乱になってゲームに熱中する。どんなゲームで遊んでいるのか、
おじさんにはサッパリだが、会話を楽しむでもなく、運動するでもなく、
ただ車座になってゲーム機とにらめっこしている光景は、おじさんの目には
なんともうすら寒い光景に映ってしまう。

昨日の新聞にもあったが、スマホに熱中している子供は外遊びをしている
子供に比べ、体力も知力も劣るのだという。それはそうだ、基礎体力をつけるべき
大事な時期に、スマホなどにうつつを抜かしていたら、IT機器特有のブルーライトで
目に障害が起きるだろうし、近視乱視のもとにもなる。それにスマホに時間をとられる分、肝心の勉強だっておろそかになる。

ボクはケータイもスマホも持たない。
意地を張って持たないわけではない。今のところ必要性を感じていないから
持たないだけだ。その代わりパソコンはやっているので、連絡等に不便を感じた
ことはない。少し前まではケータイもスマホもなく、それで十分日常生活が
成り立っていたのだから、あれば便利だろうけど、
「もちろん便利にはなるでしょう。でも、だから何なの?」
という感じだ。古人曰く。『機械あれば必ず機事あり』と。
便利なものは持てば持ったで、ただ忙しくなるだけ。しまいにはその機械に
逆に自身が使われてしまう。巷間見かける〝スマホ中毒患者〟はみなその類いだ。

ボクはしみじみ思う。子供の頃は貧しかったけれど、実に子供らしい子供だったと。
川越のボクの実家の前には農業高校があった。喜多院という大きなお寺もあった。
ボクら悪童はよく農業高校に入り込み、校内にあった牛舎や鶏舎、豚小屋で
悪さをした。当時流行っていたのが「2B弾」という花火の一種で、爆竹や癇癪玉の
ように火をつけると爆発した。けっこう危険な花火なのだが、当時は駄菓子屋で
ふつうに売られていた。ボクたちは〝にーびー〟と呼んでいたが、
この〝にーびー〟に火をつけ、豚小屋でまどろんでいる豚の尻に突っ込むのである。

爆竹を突っ込まれた豚はたまらない。「ドッカーン!」と爆発した途端に、
小屋中が大騒ぎ。「ブヒブヒブヒ……」とパニクった豚どもは小屋の柵に
一斉に体当たり。その異常な鳴き声を聞きつけた〝小使いさん(用務員)〟が
たか帚(ほうき)を振り上げ、
「コッラーっ! この悪ガキどもォ! 待ちやがれ~っ!」
必死の形相で追いかけてくる。ボクたちは算を乱して逃走。 
遠くのほうから年老いた小使いさんに向かって、
「やーい、のろまの小使いさ~ん、捕まえられるもんなら捕まえてみやがれ!」
さんざっぱら憎まれ口をたたいて挑発した。

一度、この小使いのおっちゃんに捕まったことがある。
ボクではない、のろまな子がいて、みごとに捕縛されてしまったのだ。
その後、仲間はどうなったのか、覚えていない。たぶん親御さんが
菓子折りでも持って平謝りで引き取ったのだろう。
この小使いさんとの攻防はその後も数年続いた。

今から思うと、おれたちも相当なワルだったな、と反省することしきり。
あの小使いのおっちゃんにも済まないことをした。ついでに豚ちゃんにも。
スマホゲームにうつつを抜かしている令和の子供たちにはわからないだろうけど、
あの頃は毎日がスリルとサスペンスあふれる冒険の日々だった。

ボクらにとって農高と喜多院は世の中のルールや正邪美醜を学ぶ人生の学び舎だった。
それにしてはいっこうに学んだ気配がなく、ついに悪ガキからは卒業できなかった。
あれから半世紀。かつての悪ガキが道徳家ぶった作文を書いて糊口をしのいで
いるのだから、人生は皮肉だ(笑)。

ボクの大好きな斎藤緑雨という評論家は、100年も前にこんなことを言っている。
《猿の進化して人となれりといふは、人の進化して猿となるの今日に在りて、
迂腐(うふ)の見(けん)なること疑を容れず》と。
昔の人はいつだってうまいことを言う。
猿は進化して人となったが、今や(100年前)人が進化して猿になっている。
緑雨が生きた明治の時代に猿であったものが、令和の時代も相変わらず猿のままだ。

『書を捨てて町へ出でよ』の寺山修司の逆を行くわけではないが、
  《少年よスマホを捨てて書に親しもう》
と、かつて悪ガキだったおっちゃんは強く言いたい。
昔の人は「よく学びよく遊べ」といった。ボクはよく学んだ覚えはないが、
よく遊んだ。女子高生のスカートをめくって喜ばせるといった〝よい遊び〟
ももちろんしたが、風呂屋の同級生に頼んで女風呂をのぞかせてもらう、
といった悪い遊びも少しだけした。そんな悪人バラが「書に親しもう」なんて
言っても説得力はゼロだろうが、あの貧しかった昭和の時代への深い哀惜をこめて、
どうしても言っておきたいのである。

  《青少年よスマホを捨てて書を読もう》
  《少年よゲームを捨ててスカートをめくれ》
  《少年よ書も捨てて女風呂をのぞけ》





←『こち亀』にも2B弾の使い方が出ている。






©秋本治





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