2020年6月11日木曜日

ポレンタ食いと牛の糞

北イタリアを3週間くらいかけて車で巡り、
いわゆるミシュランの星付きレストランを10数軒、
取材して回ったことがある。その折、いろんな町で、
南イタリア(人)の悪口を聞いた。

貧しい南イタリアはイタリアのお荷物。
俺たち北イタリア人がやつらを養ってあげているんだ――。
こっちが訊いているわけでもないのに、こんなふうに恩を着せる。
「ローマ以南はイタリアじゃない、アフリカだ」
こんな言い方をするものもいた。

北イタリアは工業地帯で、南イタリアは農業地帯。
経済的には豊かな北が貧しい南の面倒を見てやっている、という構図。
こうした考え方は、北イタリア人の中には根強いものがある。
一方、南イタリア人は威張りくさった北の連中を〝あのポレンタ食いども!〟
とバカにする。

ポレンタとは熱い湯に塩とトウモロコシの粉を入れ、
練り混ぜたもので、主菜に添えて食べたりする。
あんなもののどこがうまいのだ、と南イタリア人は
北イタリア人の味覚オンチをからかうのである。
ボクも何度かポレンタは食べたが、この件に関しては
南イタリア人の主張のほうが正しいような気がする(笑)。

さて、イタリア半島は長靴をはいた脚そっくりに見えるが、
その長靴をはいているのは「男か女か?」という〝なぞなぞ〟がある。

イタリアという言葉は女性名詞だから、イタリア半島も女性だろう、
と答えたら、たぶん生真面目すぎていて大向こうの受けは悪いだろう。

これについては井上ひさしのエッセイの中でも触れていて、
「男の脚に決まってる。股の付け根にベニス(ペニス?)があるではないか」
という、ちょっとエッチな答えがある。

それともう一つは、
「靴のつま先でサッカーボール(シチリア島)を蹴ろうとしているんだから、
これはもう男の脚に決まってるだろ」
今となっては女子サッカーも盛んだから、この答えは説得力が弱い。

またこんなのもある。
「貧しいシチリア島はわれわれ北部のお荷物。そしてマフィアの温床、
いっそアフリカ大陸めがけて蹴り飛ばしてしまえ。そうした気持ちが、
国土の形に表れているんだ。サッカーとくれば、もちろん答えは男だろう」
ちょっと過激な答えだが、北の連中の心情をいくばくかは代表している。

いま、アメリカの黒人差別の問題がメディアを賑わせているが、
イタリアのように同国人同士の地域差別だってもちろんある。
都会のものが田舎者を嗤う、といった構図の拡大版だろう。
大っぴらには言えないものだが、誰しも心の奥底には差別的な感情がくすぶっている。

差別はたしかによくない。なくしたほうがいいに決まっている。
が、はたしてなくなるものだろうか。百年河清を俟つ、というが、
この差別感情をなくすには、百年、二百年では追っつかないような気もする。
そもそも人間は差別する動物で、差別しなくては生きられないからだ。

人種差別、民族差別、宗教差別、性差別、経済差別……。いくらでもある。
身近なところでは部落差別なんていうのもある。
「川向こうの人たちと付き合っちゃダメだよ」
こうした言い方は、こどもの頃によく聞かされた。
当時は意味がよく分からなかったが、今は分かる。
川向こうはいわゆる〝被差別部落〟で、
そこの出身者は同級生の中にもいた。ボクの仲のいい友達も
被差別部落出身者だった。

こうした差別感情というものは、ほとんど無知からくるもので、
精緻に歴史を学べばそうした感情から解き放たれるものなのだが、
なかなかうまい具合にはいかない。

ところでボクの長女は筋金入りのバックパッカー。
世界50ヵ国近く踏破しているが、彼女はこれまた筋金入りの
コスモポリタンだと思われる。生来、人を差別するという感情が希薄なのだ。
相手の色が黒かろうが白かろうが、ごくふつうに付き合える。

アフリカ・ケニヤはマサイ族の部落へ行き、
現地の人がやるように牛の糞だかを平気で舐めた(証拠写真があるぞ)
というのだから、畏れ入ったものである。
ボクは糞だけは舐められない。
文字どおり、ウンがつきそうだからだ(笑)。
その点、娘のほうが人間としては遥かに上等でスケールがでかい。
大人(たいじん)の風さえ感じるのである(笑)。←ほめ殺しだよ!

いつもの親バカの一席でありました。お粗末さま。





←マサイ族の赤ん坊を抱く長女。










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