昼間っから団地内をブラブラしているから、怪しいやつと映るのだろう。
「失礼ですが、お仕事は?」
とよく訊かれる。
「ハァ……物書きです。といっても端くれですが……」
「どんなものをお書きになってるんですか?」
「そうですね、どっちかというと恥をかいたり大汗かいたりしてますね」
「…………?」
元市議会議員のI氏から、
「ささやかな自叙伝を残したいんだけど、代わりに書いてもらえませんか?」
と頼まれたことがある。まんざら知らない仲でもないので請けてもよかったのだが、
丁重にお断りした。なんだか気が乗らなかったのである。ボクは自著だけでなく、
他人の本も代筆する。いわゆるゴーストライターの仕事である。
それほど数をこなしたわけではないが、有名人の本は何冊か代筆している。
そしていま、久方ぶりに自分の新刊を出す予定でいる。
某有名出版社から、ありがたくも執筆依頼が舞い込んできたのだ。
もう齢も齢だし、頭も相当耄碌してきたので、このまま無為徒食を続けようと
虫のいいことを決め込んでいたのだが、
「お酒ばかり飲んでないで、少しは働いたらどうなのよ!」
と女房にきつく叱責され、しかたなく腰を上げることにした。
たぶん恥のかき納めになると思う。
近頃の新聞の新刊案内を見ると、純文学系の本が少なく、
ほとんどが〝ノウハウ本〟で占められていることが分かる。
こうやれば〝スマホ首〟が治る、だとか、半月板のズレを戻せば膝痛が治る、
あるいは定年後の〝断捨離〟をどうする、便秘に効くのは〝こうじ水〟
といった類の本ばかりだ。そうかと思うと、昔懐かし吉野源三郎原作の
『君たちはどう生きるか』が復活したりしている、漫画版だけど……(笑)。
安易なノウハウ本をバカにしているわけではない。
膝痛に悩むボクなんかさっそくアマゾンで注文したくらいだ。
しかしこの手の本を百万冊読んでもいわゆる教養は身につかない。
おそらく、スマホ中毒で〝スマホ首〟を患っている人間に
真の教養人は皆無であろう。片々たる情報などいくらかき集めても、
人間性に奥行きが増すわけではないのだ。
物書きの端くれとして言えるのは、月並みだが「文は人なり」ということだ。
どんな文章であっても、書き手の人間性、教養の度合い、ものの考え方、
政治的党派性といったものがすべて出てしまう。
ボクの文章は「クセが強い」とよく言われる。だから好いてくれる人が
いれば嫌う人もいる。ボクはそれでいいと思っている。
万人受けするであろう、差しさわりのない文章を書けないわけではない。
が、そんな文章を書いて何が楽しいんだ、という思いはある。
ボクの文章にクセがあるというのは、それはとりもなおさずボク自身が
クセの強い人間だからであって、ムリしてクセの強さを演出しているわけではない。「……てゆーか」とか「……っていうみたいな」とかいう、自信のなさから来る
今どきの若者言葉は一切出てこない。すべて断定調で「私はこう思う」と
ハッキリ書いてある。ボクの師匠である小林秀雄や山本夏彦、福田恆存もみな
断定調で書いていた。それはすなわち「文責はすべて私にあります」ということ
であって、語尾をボカし責任をはぐらかす姿勢とは無縁なのである。
ボクは高校時代に小林秀雄に心酔し、なけなしの貯金をはたいて
小林秀雄全集を買い込んだ。小林秀雄は難解、とよく言われた。
学校の教科書に載っている『無常ということ』といった文章に触れ、
反射的に拒絶反応を示してしまうのだろう。
ボクは格別頭がいいわけではないが、小林秀雄の文章は素直に胸に落ちた。
小林の男性的で硬質な文章がボクの好みでもあったのだ。たぶんボクは、
いまでも(小林秀雄みたいな文章が書きたい)と心の底で念じているのだと思う。
その小林の墓は北鎌倉の東慶寺にある。何度か詣でたことがあるが、
近く花でも手向けに行こうかと考えている。たまたま取材したい店が
北鎌倉の雪ノ下(小林は昔この雪ノ下に住んでいた)にあるから、よい機会なのである。
どんな文章にも肌ざわりというものがある。
その肌合いが合うか合わないか――その作家を好きになるかならないかは、
案外そんなところで決まってしまう。ボクが小林秀雄や山本夏彦を勝手に師と仰いで
いるのは、どことなく肌合いがあったから。馬なら乗ってみよ人には添うてみよ、
というではないか。作家に対しても添い寝の覚悟が必要なのだ。
ボクの本(『おやじの世直し』と『おやじの品格』)を読んだ読者が、
「古武士のよう」とか「徹頭徹尾硬派」といった感想を手紙に託して送ってくれた。
ちょっぴりこそばゆい思いがするが、素直にうれしい。
さて、次なる本にはどんな想いを託すとしようか。
←北鎌倉の東慶寺にある小林秀雄の墓。
苔むすままの古風な五輪塔だ。
しまふくろうさま、こんばんは(^-^)
返信削除今年は例年にないほど怪我ばかりして、
足の指を折ったり腕をひねったり尾てい骨打ったり。
おまけで突き指もした木蘭でございます(笑)
あら。
先日奥様とお話しましたが、
とっても優しくて、
また私の話をからからと笑って下さったりする、
素敵な奥様でしたよ。
チコちゃんに叱られるが如く、
しまふくろうさまは叱られてしまうのでしょうか(^▽^;)(笑)
新刊、待ち遠しいです♪
「おやじの世直し」を手にしたとき、
「こんな方がちゃんと世の中にいたんだ」と、嬉しく思ったことを覚えています。
私の本棚には、「世は〆切り」の隣に「おやじの世直し」を並べています。
新刊が出たら、夏彦先生を挟むようにして並べたいと思っています(#^.^#)
木蘭様
返信削除相変わらずケガの絶えない人ですね。
たぶん注意散漫で、生来おっちょこちょいなんでしょう。←ホメてる。
そんな尼さんが檀家さんの前で説教を垂れてる図を想像すると、けっこう笑えます。
でも、そんな不器用な木蘭さんだから、誰からも愛されるんじゃないかしら。
チコちゃんには絶えず叱られそうだけどね(笑)。
これからも生傷の絶えない日々でしょうが、木蘭さんの守護神であるしまふくろうが、
遠くの空から見守っています。安心して蹴つまずいたり尾てい骨を打ってください。
キズだらけの木蘭さんは素敵です!