2017年5月19日金曜日

たかが痴漢ぐらい!

車内で痴漢をしたあと線路に飛び降りるという〝禁じられた遊び〟が流行っている。
みごと逃げおおせればめっけものだが、電車に轢かれてしまったマヌケなやつもいる。
飛び降りたもののなかには、無実なのにめんどうな警察沙汰をきらって、
あえて危険に身をさらしたものもあるかもしれない。

ボクの敬愛する93歳の佐藤愛子様は、
たかが痴漢ぐらい! 強姦されたわけじゃないんだから。
そう言うと、同じ目にあったことがない人にはわからないんだって、
必ず反論されるんだけど、大体そんなものたいした目じゃないでしょうが。
もっと過酷な目に我々はいっぱいあってきてますよ。それを耐えに耐えて
底力がついたんです》(『それでもこの世は悪くなかった』より)
とキッパリ。さすが戦中派だ、肝っ玉(タマなしだけど)が据わっている。

ボクはあいにく痴漢をしたことがない。が、されたことはある。
学生時代、ホモが多いという池袋の映画館の中で、
隣に座ったおじさんにいきなりキン⚾をニギニギされたのだ。だが、その程度の
ことはもちろん許容範囲内だし気持ちもいいので、いたずらに騒ぐことはしなかった。
ボクはキン⚾も大きいが、度量も大きいのである。

愛子先生に言わせると、今の人たちは文句の言い過ぎだという。
《後期高齢者という名称がけしからん、と言って怒る人がいる。
いいじゃないですか、後期なんだから。末期でもいいと私は思いますよ。
現実がそうだったら、なんと呼ばれようといいじゃないか、なぜそんなことまで
ワアワアと腹を立てるんだろう。私みたいな怒りんぼですらそう思うんですよ。
どうしてこう、みんな文句を言うのが好きになったのか》(『同上』より)

愛子女史曰く。
じっと観察していると、「不満と要求のセット」なのだという。
とにかく今の人たちは要求が多すぎると。

ボクは愛子女史みたいに「正々堂々と生きたい」クチなので、
女のおケツをさわって、線路に飛び降りるなんて、
薄らみっともないことはしない。
あんなもの、減るもんじゃあるまいし……
などと不謹慎なことを思わないでもないが、
さわられたほうにしてみれば、おぞけをふるうほど気持ちが悪いのであろう。
でも、当の痴漢氏がジャスティン・ビーバーみたいな〝かわいい男〟だったら、
尻を突き出し、
(いくらでもさわりまくってちょうだい、ウッフン……)
となるのかしら。そう考えると、いっぺんおケツをさわられてみたい気もする。

「パワハラ」「セクハラ」と世間は異常にかまびすしい。
ボクなんか昔、高校の数学教師にゲンコツで数回殴られたことがあったし、
社会人になってからは、
「こんなトロい原稿が通ると思ってんのかよ。さっさと書き直してこい!」
と、編集長に何度も原稿用紙をぶん投げられたことがある。
どっちもコンチクショー、とは思ったが、
セン公や上司を怨むことはなかった。悪いのはこっちだからである。

今の若い人は、親にもきつく叱られたことがないものだから、
ちょっとしたことですぐ傷ついてしまう。
異様なほど打たれ弱いのである。へたをすると悲観して自殺してしまう。

《今いったい、どれだけの若者が生きがいをもって生きているでしょう。
あの頃を思うと天国のような世の中なのに、自殺する人が後を絶たない
のはどういうことか。ゆたかさや自由も度をこすと人間力が萎えるという
ことなんでしょうかねえ》(『同上』より)

佐藤さんがいう〝あの頃〟というのは、戦中と戦後まもなくのことだが、
あの頃、日本人はみな一心不乱に生きようとしていた。
絶望しているヒマなどなかった。自殺を考える人などいなかったのではないか。

人は困苦欠乏によって鍛えられるというが、
平和で豊かな時代を生きるというのは、
これはこれで難しいことなのかもしれない。やれやれ……



←敗戦後の〝タケノコ生活〟の中、
買い出し列車は人の山。みんな
生きることに精一杯で、それこそ
自殺しているヒマなどなかった。
ましてや車内の痴漢など……。
衣食足りて礼節を忘る?



2 件のコメント:

  1. 嶋中労さま

    こんばんは。
    呑んでいますので、それなりでお願いいたします。

    佐藤愛子さんは日本人です。もしかしたら数年後には純粋な日本人の血を引く人が
    存在しなくなる時を迎えるかもしれません。それは日本であって日本国でなくなる
    日なのかもと、活きよで考えた次第です。

    生き抜いた言葉にはかないませんね。こんなことからも母想い、涙するのは・・・

    寝ます。

    ありがとうございました。

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  2. 田舎者様
    ウウウウ……こっちもついもらい泣きしてしまいました。
    亡母のことを想うと、やっぱ泣けますね。男はみんな泣くんです。

    佐藤愛子さんにはキン⚾はついていませんが、
    草食系とかいう連中の〝ふにゃ珍〟など蹴っ飛ばす迫力がありますね。
    たしかに彼女は、キン⚾を切り取った阿部定に次ぐ怪女であります。

    艱難汝を⚾にする、という俚諺があります。
    また、憂きことのなほこの上に積もれかし 限りある身の力ためさん(熊沢蕃山)
    さらには、願わくば我に七難八苦を与え給え(山中鹿ノ介)
    なんてのもありました。

    昔の人は偉いですね。あえて困難を身に引き受けようとする。
    こうやって心胆を錬磨し、度胸を養ったんですね。

    ボクも酒を飲みながら、おのれの不徳について、よーく考えてみることにします。

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